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福岡高等裁判所 平成7年(ネ)484号 判決

主文

一  本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。

二  当審における訴訟費用は各自の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人上野和子に対し三八二〇万円、同上野奈初美及び同上野優子に対し各一四一〇万円及びこれらに対する昭和六一年七月二七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

三  附帯控訴の趣旨

1  原判決中、被控訴人敗訴部分を取り消す。

2  控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人らの負担とする。

四  附帯控訴の趣旨に対する答弁

1  本件附帯控訴を棄却する。

2  附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

事案の概要は、次のとおり訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。

原判決一六頁九行目の「転機」を「転帰」と、同二二頁一〇行目の「勤めた」を「努めた」と、それぞれ改める。

第三  争点に対する判断

争点に対する判断は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」の説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二五頁初行の「において」の後に「受診し」を、同行の「指示により、」の後に「同月一八日」を、それぞれ加え、同二行目の「肝シンチを受診したが」を「肝シンチ検査を受けたが」と改め、同一〇行目の「50、」を削除し、同行の「乙1」の後に「の4」を、同末行の「51、」の後に「72、鑑定書、当審」を、同行の「結果」の後に「、争いのない事実」を、同二七頁三行目の「研究報告」の後に「(甲42)」を、同四行目の「論文発表し」の後に「(甲43)」を、それぞれ加え、同三〇頁五行目の「乙1~3」を「乙1の1~76、2の1~75、3の1~64(以下、単に「乙1~3」のようにいう。)」と改め、一〇行目の「進は、」から同三一頁四行目の「その後、」までを、次のとおり改める。

「進は、その夜の当番医から止血の応急措置を受け、その際、精密検査を受けることを勧められた。被控訴人は、まだ少量の鼻血があると訴える進に対し、同月一八日、止血剤の点滴と内服の止血剤を投与し、同月二〇日、河村耳鼻咽喉科を紹介した。その後、河村医師からは、被控訴人に対し、鼻粘膜の毛細血管からの出血であること、進に副鼻腔炎が存在していたが、これも鼻血の原因と考えられる旨の連絡があった。」

2  同三一頁九行目の「結果」の後に「、弁論の全趣旨」を加え、同三二頁初行の「及び原告和子」を削除し、同七行目から八行目にかけての「右背部から右季肋部にかけての疼痛」を「右季肋部痛」と改め、同九行目の「しかし、」から同三三頁四行目の「るとともに、」までを、次のとおり改める。

「翌一九日も、進は、被控訴人の診療を受け、上腹部痛を訴え、腹部膨満感、発熱(三九・一℃)を伴っていたため、被控訴人は肝癌を疑診するとともに、」

3  同三三頁八行目の「点滴終了の正午ころ、」を「点滴が終了して、午後一時過ぎころ、」と、同三四頁九行目の「見つかったほか、」から同末行の「認められたため、」までを「見つかり、患部が破れ腹腔内出血を起こしていたことがわかり、」と、同三五頁二行目の「脱したことから、」から同四行目の「行った。」までを「脱したことから、同月二二日、海口医師は、肝癌からの出血を止めるため、緊急治療として抗癌剤を注入した血管造影を行い、急性腹症の原因が肝癌である旨の確定診断をした。」と、それぞれ改め、同八行目の「結果」の後に「、弁論の全趣旨」を加える。

4  同三八頁二行目の末尾の後に「(鑑定書)」を加え、同八行目の「一四六」を「一六」と、同四二頁二行目の「に健康保険」から同三行目の「総合」までを「の医療総合」と、それぞれ改め、同四三頁三行目の「肝癌」の後に「等」を加え、同六行目の「進は」から同九行目の「認められる。」までを、次のとおり改める。

「他方、前記のとおり、進は、被控訴人医院に毎日のように通院して、被控訴人を全面的に信頼するとともに、自らの健康維持への熱意を示していたこと、進は、小倉記念病院において、昭和五八年一〇月、人間ドックでAFP検査を受け、肝障害患者として超音波検査を受けるなどしていたこと、同病院には昭和五八年以前から消化器内科で定期超音波検査を実施する先駆的医師がおり、昭和五九年からは一般的にも右定期検査が多く実施されるようになったことが認められる(原審証人森田孝二。右定期検査がB型肝硬変か非代償期の肝硬変の患者に限られていたという当審証人木下善二の証言は、裏付けを欠くうえ、原審証人森田の証言に照らしても採用できない。)。」

5  同四四頁七行目の末尾の後に、次のとおり加える。

「この点につき、被控訴人が指摘するように、AFPを含む腫瘍マーカーの検査は、診療及び他の検査の結果から悪性腫瘍の患者であることが強く疑われる場合に限って保険診療として認められていたとしても、前述したところに照らすと、右被控訴人の定期的スクリーニング義務の認定を覆すに至らず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。」

6  同四五頁五行目の「五五」を「一一一六」と、同六行目の「あるが、」を「あり、」と、同八行目の「と認められる。」から同四六頁三行目の「本件の場合、」までを「であるが、本件では、鑑定書が、開業医レベルでの実施という立場から検査間隔は六か月が相当としていることを重視して、」と、同四行目の「年三回」を「年二回」と、同五行目の「四か月」を「六か月」と、それぞれ改め、同四七頁四行目の「実施したのみで」の後に「(原審における被控訴人本人尋問の結果)」を、同四八頁五行目の「代償性肝硬変症であった」の後に「(鑑定書)」を、それぞれ加え、同八行目の「四か月」を「六か月」と、同五〇頁二行目の「判定不能」を「測定不能」と、同四行目の「区別している。」から同七行目の「であるから、」までを「区別しているから」と、それぞれ改め、同八行目の「また、」の後に「鑑定書は、」を加え、同末行から第五一頁初行にかけての「推測することができる。」までを、次のとおり改める。

「するが、他方、肝細胞癌の発育速度は個体により様々であり、小肝細胞癌での腫瘍倍加時間は、平均五・二(±)三・六か月であるとの医学上の知見もあり、また、三センチメートル以下で発見された小肝細胞癌は無治療の自然経過であっても、一年以内の癌死亡例は見られないとの報告がある。(甲76・一九頁、二四、二五頁)」

7  同五一頁一〇行目の「であるから」の後に「(原審証人森田孝二、同馬場崇の各証言)」を加え、同五三頁三行目の「四か月」を「六か月」と、同四行目の「とすれば、」を「ならば、」と、同六行目の冒頭から同七行目の「発見できた」までを、次のとおり改める。

「前記(二)の腫瘍倍加時間について検討したところを合わせて考慮すると、進の肝癌は、遅くとも、確定診断のなされた昭和六一年七月の六か月前である昭和六一年一月ころまでには、発見することが可能であったとの」

8  同五四頁五行目の「認められる」の後に「(鑑定書)」を、同七行目の「悪化しておらず」の後に「(甲57、乙50、鑑定書、原審証人馬場崇の証言)」を、同八行目の「代償性肝硬変」の後に「であって」を、それぞれ加え、同九行目から一〇行目にかけての「適切な治療」を「治療法のいずれか、あるいはその組み合わせを適切に選択して実施すること」と、同五五頁一〇行目の「酵素」を「酸素」と、それぞれ改め、同五六頁五行目の「できるが」の後に「(原審証人馬場崇の証言)」を加え、同五八頁三行目の「52~56」を「52、53」と改め、同四行目の「からであり」の後に「(原審証人海口喜三夫の証言)」を加え、同六行目の「癌」を「結節型の癌」と改め、同八行目の「一二八頁」の後に「、当審証人木下善二の証言」を加え、同一〇行目の「肯定される。」の後に、次のとおり加える。

「仮にS4の病変が被控訴人主張のように浸潤型癌であったとしても、それが原発巣であったと認めるに足りる証拠はなく、かえって、浸潤型癌の発育速度は、通常、結節型癌のそれより速い(原審における被控訴人本人尋問の結果)ことと、前記認定したS4の病変(但し、門脈塞栓ないし門脈浸潤との一体的関係を認めることができないのは前記のとおり。)とS6、S7の癌のそれぞれの大きさを比較すれば(S6の癌が最も大きい。)、S4の病変は、S6、S7の癌より後発か、ないしはそれが転移したものであった可能性も否定できないと思われ、その場合には、TAE療法が不適応であったということはできない。」

9  同五九頁四行目の「悪すぎる」の後に「場合、」を、同五行目の「癌」の後に「の場合」を、同行の「一三二頁」の後に「、一三五頁」を、それぞれ加え、同八行目から九行目にかけての「門脈二次分枝に腫瘍栓(乙52=甲75の1)」を「門脈一次分枝に腫瘍栓(甲4の3、75の1、原審証人海口喜三夫の証言)」と、同六〇頁五行目から六行目にかけての「と考えることもできる」を「の可能性もある」と、それぞれ改め、同六行目の「一般に、」の後に「結節型」を、同八行目の「から、」の後に「それより小さな」を、それぞれ加え、同六一頁初行の末尾の後に、次のとおり加える。

「そして、S4の病変が浸潤型癌であったとしても、原発巣であったと認めることができず、かえって、S6、S7の癌より後発か、ないしはそれが転移したものであった可能性も否定できないことは、前記のとおりである。」

10  同六一頁七行目の「としても、」の後に「いつの時点でどのような癌を発見することができたかという点などの本件の不確定要素に照らすと、」を加え、同六二頁六行目の後に改行して、次のとおり加える。

「控訴人らは、進の癌の大きさが二センチメートル未満の時点で発見できたはずであることを前提として、二センチメートル未満切除例の五年生存率に基づき損害を算定するべきであると主張するが、前記四1(二)の説示に照らすと、必ずしも右前提のとおりとなるとは限らず、また、前記の本件における不確定要素をも考慮すると、控訴人らの右主張を採用するのは相当でない。」

第四  よって、控訴人らの本件請求は、原判決主文第一項記載の限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当であるから、これを棄却すべきところ、右と同旨の原判決は正当であり、本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

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